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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(オ)97号 判決 1984年3月29日

上告人

甲野太郎

右代理人

山田利輔

被上告人

甲野花子

右代理人

石坂俊雄

村田正人

福井正明

伊藤誠基

被拘束者

甲野一男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山田利輔の上告状及び上告理由書各記載の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

仮に所論のように、本件において被拘束者を上告人による拘束から救済するために、被上告人が家庭裁判所に被拘束者の監護者の指定の審判を申し立て、家事審判規則五二条の二に従い被拘束者の引渡の仮処分を申請する方法によることができるとしても、一般的には、そのような方法によつては、人身保護法によるほどに迅速かつ効果的に被拘束者の救済の目的を達することができないことが明白であるというべきであるから、本件において、被上告人が上告人に対し人身保護法による被控束者の引渡を請求することを妨げるものではないと解するのが相当である。原判文に徴すれば、原審も右と同旨の見地に立つて本件人身保護請求を認容したものと解することができる。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について

夫婦関係が破綻に瀕しているときに、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づきその共同親権に服する子の引渡を請求しうることは、当裁判所の判例とするところであるから(昭和二三年(オ)第一三〇号同二四年一月一八日第二小法廷判決・民集三巻一号一〇頁、同四二年(オ)第一四五五号同四三年七月四日第一小法廷判決・民集二二巻七号一四四一頁)、これと同旨の見解に基づく原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、人身保護規則四二条、四六条、民訴法九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 藤﨑萬里 和田誠一 角田禮次郎 矢口洪一)

上告代理人山田利輔上告状記載の上告理由

第一点<省略>

第二点

人権保護規則第四条但書は「他に救済の目的を達するのに適当な方法があるとき、その方法によつて相当な期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければこれをすることができない。」と規定する。

而して昭和五五年法律第五一号で家事審判法の改正があり、同時に家事審判規則も改正されて執行力のある審判前の保全処分の制度が新設された。

改正后の同規則五二条の二、同五三条によれば子の引渡の仮処分が可能であり、強制力も存するものである。

したがつて被上告人は家庭裁判所に対し子の監護者の指定の審判を申し立てそして同時に子の引渡の仮処分の申請ができるはずである。

本件について右の如く「他に救済の目的を達するのに適当な方法がある。」

しかも「その方法によつて相当な期間内に救済の目的が達せられないことが明白である」となす判示は原判決の理由中どこにも見当らないものであり理由不備は明確であろう。

大体本件の如き事案では、家庭裁判所で調査官や調停委員等によつて、もつと正確な資料の蒐集がなされれば原判決の如き誤判を避け得るものであり、前述人権保護規則第四条但書に原判決は明白に違反するものである。

右は判決に影響を及ぼすこと明らかである。<後略>

同上告理由書記載の上告理由<省略>

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